ストレスチェックを初めて実施する会社の担当者からよく聞かれるのが、「57項目って具体的に何を聞かれるんですか」という質問です。従業員側からも「正直に答えたら評価が下がるのでは」という不安の声が出やすく、説明が不十分だと形だけの実施になりがちです。
この記事では、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の構成と質問内容、回答結果がどう扱われるかを、中小企業の人事・総務担当者向けに整理しました。従業員への説明資料としてもそのまま使える内容です。
57項目の調査票とは
ストレスチェックの57項目とは、厚生労働省が公表している「職業性ストレス簡易調査票」の標準版を指します(厚生労働省PDF)。2015年12月の制度開始以来、常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられているストレスチェックで、もっとも広く使われている調査票です。
なお2025年5月14日公布の改正労働安全衛生法により、施行日は令和10年4月1日(2028年4月1日)と定まっており、この時点で常時50人未満の事業場にも実施義務が拡大します(現在は努力義務)。義務化の全体像は「ストレスチェック義務化 完全ガイド」で詳しく解説しています。
57項目という数字に厳密な法的根拠があるわけではなく、仕事のストレスを研究するために設計された調査票の項目数がたまたま57だった、という経緯です。ただし内容自体は労働者のストレス状態を評価するうえで妥当性が検証された標準ツールであり、独自に質問を作るより信頼性が高いとされています。
57項目の内訳|A・B・C・D 4つの領域
57項目は次の4つの領域に分かれています。
| 領域 | 項目数 | 測定内容 |
|---|---|---|
| A群:仕事のストレス要因 | 17項目 | 仕事の量・質、コントロール度、職場の対人関係、職場環境など |
| B群:心身のストレス反応 | 29項目 | イライラ・不安・気分の落ち込みなどの心理面、頭痛・肩こり・疲労感などの身体面 |
| C群:周囲のサポート | 9項目 | 上司・同僚・家族からの相談のしやすさ |
| D群:満足度 | 2項目 | 仕事や家庭生活への満足度 |
合計で17+29+9+2=57項目です。B群が最も多いのは、ストレス反応を心理面・身体面の両方から多角的に捉える必要があるためです。
A群:仕事のストレス要因(17項目)
「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「自分のペースで仕事ができる」「職場の人間関係で困っている」といった、業務内容や職場環境に起因する質問が中心です。この領域のスコアが高い(ストレス要因が多い)場合、業務量や裁量権の見直しなど組織側の課題が見えてきます。
B群:心身のストレス反応(29項目)
「活気がわいてくる」「ゆううつだ」「気分が晴れない」「食欲がない」など、直近1か月の心身の状態を尋ねる項目です。29項目中には身体的症状(頭痛・めまい・腰痛など)と心理的症状(不安・イライラ・集中力低下など)が含まれます。ここのスコアが高い従業員は、実際にストレスの影響が心身に出ている状態を示します。
C群:周囲のサポート(9項目)
「次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか」という形式で、上司・同僚・配偶者や家族それぞれについて尋ねます。ストレス要因があっても、相談できる相手がいれば心身への影響は緩和されるという考え方に基づく領域です。
D群:満足度(2項目)
「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」という2項目のみのシンプルな領域です。ストレス要因・反応・サポートの3領域を補完する位置づけです。
回答形式と所要時間
すべての項目は「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4段階(一部項目は表現が異なる4択)で回答します。2択では判定に必要な情報量が不足し、選択肢を増やしすぎると回答負担が増えるため、4段階が実務上のバランス点とされています。
所要時間の目安は5〜10分です。紙の調査票に手書きで回答する方法のほか、Webシステムで回答する方法があり、Web実施なら自動集計されるため事業場側の集計負担が大きく減ります。
高ストレス者はどう判定されるのか
回答結果は点数化され、A群・B群・C群それぞれの合計点が計算されます(D群は判定式には含まれません)。高ストレス者の判定は、主に次のいずれかの条件に該当する場合です。
- B群(心身のストレス反応)の点数が一定基準以上に高い
- B群の点数がやや高く、かつA群(ストレス要因)とC群(サポート不足)を合算した点数も高い
最終的な高ストレス者の該当・非該当は、点数だけでなく実施者(医師・保健師など)が確認したうえで判定します。高ストレス者と判定された後の面接指導の流れは「高ストレス者の面接指導とは」で解説しています。
正直に答えても人事評価に響かない理由
従業員説明会で必ず出るのが「正直に答えたら人事評価や査定に影響するのでは」という不安です。これは制度上の仕組みで防がれています。
第一に、個人の回答結果と点数は、実施者(医師・保健師等)と本人以外は見ることができません。労働安全衛生法上、事業者が本人の同意なく個人結果を入手することは禁止されています。社長や人事担当者が特定の従業員の点数を閲覧することはできない仕組みです。
第二に、事業者側が確認できるのは「集団分析」の結果のみです。これは部署や職種などのグループ単位で集計したデータで、個人が特定されないよう、通常10人未満の小規模な集計単位では結果を提供しないという運用上の配慮がなされます(厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」)。
第三に、高ストレス者と判定されても、それ自体が人事上の不利益に直結する制度にはなっていません。面接指導の申出を理由とした不利益取扱いは法律上禁止されています。
こうした仕組みを従業員に事前にきちんと説明できるかどうかが、回答の正直さ、ひいては集団分析データの精度を左右します。中小企業では「社長は個人の点数を絶対に見ない」という姿勢を実施前に明言することが、特に効果的です。
集団分析結果を職場改善に活かす
57項目のスコアは、個人のケアだけでなく組織の課題発見にも使えます。
| 集団分析で見えてくる傾向 | 想定される課題 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| A群(仕事の量的負荷)が特定部署で高い | 業務の偏り・人員不足 | 業務量の再配分、増員の検討 |
| B群(身体的症状)が高い | 作業環境の問題 | 照明・温度・休憩体制の見直し |
| C群(上司のサポート)が全体的に低い | 管理職のマネジメント不足 | 管理職向け研修、1on1の導入 |
数値化されたデータがあると、「なんとなく雰囲気が悪い」という感覚論ではなく、優先順位を持って改善に着手できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 57項目と簡略版(23項目)はどちらを選ぶべきですか? 簡略版(23項目)は仕事のストレス要因とストレス反応を中心にした短縮版で、回答時間を抑えたい場合の選択肢です。ただしサポート状況を測るC群の項目が少なく、集団分析の切り口も限定されます。初めて実施する場合や、集団分析を職場改善に活用したい場合は、標準の57項目版を選ぶ企業が多い傾向にあります。
Q2. すべての項目に必ず回答しないといけませんか? 制度上は全項目への回答が前提ですが、回答したくない項目がある場合の扱いは実施者や実施システムによって異なります。無回答が多いと判定の精度が下がるため、事前説明で不安を取り除いておくことが重要です。
Q3. 57項目のうち一部だけを自社で改変してもいいですか? 改変は推奨されません。厚生労働省版は統計的な検証を経た標準ツールであり、項目を変えると高ストレス者判定の妥当性が保証されなくなります。追加の設問を別途用意することは可能ですが、57項目自体は標準のまま使うのが安全です。
Q4. パート・アルバイトも57項目に回答する対象ですか? 週の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であり、かつ1年以上(有期契約の場合は原則1年以上)継続して雇用される見込みがある人は対象です。短時間勤務者は対象外となるケースが多いため、契約形態ごとに確認が必要です。
Q5. 結果はどのくらいの期間保存する必要がありますか? 個人の結果は事業者が5年間保存する義務があります。ただし前述の通り、事業者が保存できるのは本人の同意を得た結果、または集団分析データに限られます。
まとめ
57項目は「仕事のストレス要因(A群)」「心身のストレス反応(B群)」「周囲のサポート(C群)」「満足度(D群)」の4領域で構成され、個人のケアと組織の職場改善の両方に使えるよう設計された調査票です。正直な回答を引き出すには、個人結果が事業者に開示されない仕組みを従業員にきちんと説明することが欠かせません。
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