「うちは全社で60人いるからストレスチェックの実施義務がある」——この判断、実は誤りかもしれません。ストレスチェックの実施義務は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」に課されますが、この「事業場」は会社全体を指す言葉ではありません。本社と支店、工場が別々にカウントされる結果、全社では50人を超えていても、どの拠点も義務の対象外というケースは珍しくありません。逆に、全社では50人未満でも、特定の拠点だけ義務対象になることもあります。この記事では、数え方の原則と、複数拠点・出向・派遣といった判定に迷いやすいケースを整理します。
よくある誤解:「会社全体で50人」で判断してしまうケース
労働安全衛生法におけるストレスチェックの実施義務は、条文上「事業場」を単位としています。ところが実務では、人事部門が全社の従業員名簿から総人数を数えて「50人を超えたから義務化対象」あるいは「50人未満だから対象外」と判断してしまう場面が少なくありません。
これは労働安全衛生法の他の制度、たとえば衛生管理者の選任や安全衛生委員会の設置義務が「事業場単位」で判定される仕組みと同じ考え方をストレスチェックにも当てはめれば防げる誤解です。全社の合計人数ではなく、本社・支店・工場・営業所といった「場所的に独立し、組織的な関連がある一定の範囲」ごとに人数を数え直す必要があります。
正しい単位:事業場ごとに数える
厚生労働省の解釈における「事業場」は、原則として同一の場所にあるものを一つの事業場とし、場所的に分散している場合はそれぞれを別個の事業場として扱います。これは36協定の締結単位や、衛生管理者・産業医の選任義務が発生する単位とまったく同じ考え方です。
つまり、次のように判定します。
- 本社(40人)と支店(20人)が別の場所にある場合 → それぞれ別の事業場として数える。本社40人・支店20人はいずれも50人未満のため、現行制度では実施義務なし
- 同一ビル内・同一敷地内に複数の部署がある場合 → 組織的な独立性が低ければ一つの事業場としてまとめて数えるのが一般的
ただし、著しく小規模な出張所や支店で、労務管理上、直近の上位組織と一体的に運営されている場合は、上位の事業場に含めて人数を数えることもあります。自社の拠点構成が判断に迷うケースに該当する場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認することをおすすめします。
「常時使用する労働者」に誰が入るか
事業場ごとの人数を数える際、正社員だけでなく、以下の条件を満たす労働者はすべてカウントに含める必要があります。
- 期間の定めなく雇用されている労働者、または雇用期間が1年以上(見込みを含む)の労働者
- 週1回程度の勤務であっても、継続して雇用され常態として使用されている労働者(パート・アルバイトを含む)
- 通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上働く労働者
- 派遣先で受け入れている派遣労働者(派遣先の人数としてもカウントする点に注意)
対象者の詳しい判定基準(契約期間・労働時間の4分の3基準など、個々の労働者がストレスチェックの受検対象になるかどうかの判断)は、ストレスチェックの対象者とは?パート・契約社員・派遣社員の判断基準で詳しく解説しています。本記事では「事業場に実施義務がかかるかどうか」という人数判定に絞って解説します。
判定に迷う類型
実務でよく相談を受ける、判定に迷いやすいケースを整理しました。
| ケース | 数え方の考え方 |
|---|---|
| 複数拠点(本社・支店・工場が別の場所) | 原則としてそれぞれ別の事業場として個別に人数を数える |
| 極小規模の出張所・営業所 | 労務管理が本社と一体的なら本社の人数に含めることがある。個別判断が必要 |
| 出向者(他社からの受け入れ) | 出向先で指揮命令を受け、労務提供の実態がある場合は出向先の人数に含める |
| 派遣労働者(派遣先での受け入れ) | 派遣先の事業場の人数としてカウントする(派遣元ではなく派遣先) |
| 短期の繁忙期要員(数週間〜数か月) | 雇用期間が1年未満見込みで、所定労働時間も4分の3未満なら含めないのが原則。ただし反復更新の実態があれば含める方向で検討する |
| 休職中の社員(育休・傷病休職など) | 雇用契約が継続している限り、原則として人数に含める |
拠点ごとの人数を出す手順
自社の実施義務の有無を判断するには、次の手順で拠点ごとに人数を洗い出すのが確実です。
- 拠点(事業場)の一覧を作る。同一住所・同一組織単位でグルーピングする
- 各拠点に所属する労働者を、雇用形態を問わず全員リストアップする
- 上記「常時使用する労働者」の条件に当てはめ、対象者を絞り込む
- 派遣労働者・出向者を、受け入れ側の拠点に加算する
- 拠点ごとの合計人数を50人と比較する
| 拠点名 | 常時使用する労働者数 | 実施義務(現行制度) |
|---|---|---|
| 本社 | 45人 | なし(50人未満) |
| 大阪支店 | 62人 | あり(50人以上) |
| 名古屋営業所 | 8人 | なし(50人未満) |
この例では、全社合計は115人でも、義務が発生するのは大阪支店のみです。本社や名古屋営業所は、現行制度上は実施義務がないことになります。
50人未満だった場合にどうするか
現行の労働安全衛生法では、常時50人未満の事業場でのストレスチェック実施は「努力義務」にとどまっており、罰則の対象にはなりません。しかし、2025年の法改正により、2028年4月1日からは事業場の規模にかかわらず、原則すべての事業場に実施が義務付けられます。 新たに対象となる事業場は、2028年4月1日から2029年3月31日までの間に最初のストレスチェックを完了させる必要があるとされています。
つまり、「今は50人未満だから対象外」という状態は、あと1年半ほどで終わります。実施者(医師・保健師等)の確保や実施体制の整備には準備期間が必要なため、義務化前から任意でストレスチェックを始めておく企業も増えています。早めに着手すれば、法改正後に慌てて実施者を探す、体制を整えるといった駆け込み対応を避けられます。Smart Stress Checkでは、50人未満の事業場でも手軽に始められるオンラインのストレスチェックを提供しています。
FAQ
Q1. 本社と支店を合算して50人を超えていれば実施義務がありますか?
いいえ。本社と支店が別の場所にある場合は、原則としてそれぞれ別の事業場として個別に人数を数えます。全社合計ではなく、拠点ごとの人数で判定してください。
Q2. 週1回しか出勤しないアルバイトも人数に含めますか?
含める必要があります。勤務日数が少なくても、継続して雇用され常態として使用されている労働者であれば、常時使用する労働者としてカウントに含めます。
Q3. 派遣社員は派遣元と派遣先、どちらの人数に含まれますか?
派遣先の事業場の人数に含めます。派遣元ではなく、実際に指揮命令を受けて働いている派遣先の拠点でカウントする点に注意してください。
Q4. 拠点の人数が49人から50人に増えたら、その時点で義務が発生しますか?
常時使用する労働者数が50人以上になった時点で、その事業場は実施義務の対象になります。人数の変動がある拠点は、定期的に人数を確認しておくことをおすすめします。
Q5. 2028年の義務化後も、事業場単位の考え方は変わりませんか?
2028年4月1日以降は、事業場の規模にかかわらず原則すべての事業場が対象になるため、50人以上かどうかの判定自体が不要になります。ただし、実施者の確保や結果の保存など、事業場ごとに体制を整える必要がある点は変わりません。
まとめ
ストレスチェックの実施義務がかかる「常時50人以上」は、会社全体ではなく事業場ごとに数えるのが原則です。本社・支店・工場が別の場所にある場合はそれぞれ個別に判定し、パート・アルバイト・派遣労働者・出向者もカウントに含める必要があります。自社の拠点構成で判断に迷う場合は、早めに整理しておくと、2028年4月からの義務化にも落ち着いて対応できます。まずは自社の対象範囲を確認したい方は、Smart Stress Checkの無料登録から始めてみてください。