「うちのパートさんはストレスチェックの対象になりますか」——これは50人未満の事業場が制度の準備を始めたときに、真っ先にぶつかる質問のひとつです。フルタイムの正社員だけが対象だと思い込んでいたり、逆に在籍する全員に受けさせなければならないと考えていたり、現場での理解にはかなりの幅があります。実は対象者の判断基準は法令上明確に定められており、契約期間と労働時間という2つの軸で機械的に判定できます。この記事では、厚生労働省の一次資料に基づいて対象者の判断基準を整理し、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員・休職者といった具体的なケースでどう判断すればよいかを解説します。
対象者の大原則:常時使用する労働者
ストレスチェックの対象者となるのは「常時使用する労働者」です。これは一般定期健康診断の対象者と同じ考え方で、契約の名称や国籍にかかわりなく、次の①②の要件をどちらも満たす人を指します。厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)が示す定義です。
- 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約でも、契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者を含む)であること
- その者の1週間の労働時間数が、その事業場で同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること
つまり「正社員かどうか」ではなく、契約期間と労働時間の実態で判断するのがポイントです。呼び方が「パート」でも「契約社員」でも、この2つの要件を満たせば対象者になります。
判断基準①:契約期間
まず契約期間の要件です。期間の定めのない契約(いわゆる正社員の無期雇用)はそのまま該当しますが、有期契約でも次のいずれかに当てはまれば要件を満たします。
- 契約期間が1年以上である
- 更新により1年以上使用されることが予定されている
- すでに1年以上引き続き使用されている
短期の契約書を結んでいても、更新を重ねて実態として1年以上働いていれば対象になり得るという点は見落とされがちです。「契約書上は3か月更新だから対象外」と機械的に判断せず、更新の実態まで確認する必要があります。
判断基準②:労働時間(4分の3基準)
次に労働時間です。基準になるのは、同じ事業場で同種の業務に従事する通常の労働者(多くの場合は正社員)の所定労働時間です。正社員が週40時間であれば、その4分の3である週30時間以上働いている人が対象者になります。
推奨対象:2分の1以上4分の3未満の層
4分の3に届かない場合でも、契約期間の要件を満たし、労働時間が通常の労働者のおおむね2分の1以上である人には、ストレスチェックを実施することが望ましいとされています。これは義務ではなく努力目標的な位置づけなので、「実施しなければならない」と混同しないよう注意してください。週40時間の正社員が基準なら、週20時間以上30時間未満のパート・アルバイトがこの層に当たります。
ケース別早見表
| ケース | 契約期間の要件 | 労働時間の要件 | 判定 |
|---|---|---|---|
| フルタイムの正社員 | 無期雇用で満たす | 通常労働者本人が基準 | 対象 |
| フルタイム勤務のパート(無期契約) | 満たす | 週40時間なら満たす | 対象 |
| 週3日勤務のアルバイト(週24時間、契約更新1年以上見込み) | 満たす | 4分の3未満だが2分の1以上 | 実施が望ましい(義務ではない) |
| 週1〜2日勤務のアルバイト(週16時間) | 契約内容による | 2分の1未満で満たさない | 対象外 |
| 契約社員(契約期間1年、週35時間) | 満たす | 満たす | 対象 |
| 派遣社員 | 派遣元との契約で判断 | 派遣元との契約で判断 | 対象(ただし実施義務は派遣元) |
| 休職中の社員 | — | — | 実施期間中は対象外とする運用が一般的 |
| 役員・事業主本人 | 労働者に該当しないため対象外 | — | 対象外 |
役員や事業主本人は労働契約ではなく委任契約等の関係にあるため、そもそも労働安全衛生法上の「労働者」に該当せず対象外です。ただし、部長職などの管理職であっても労働契約に基づき賃金を受けて働く従業員であれば、通常は対象者に含まれます。
派遣社員の扱い
派遣社員については、対象者の判断だけでなく「誰が実施義務を負うか」も整理しておく必要があります。厚生労働省のマニュアルは、派遣労働者に対するストレスチェックの実施義務は派遣元にあるとしています。一方で、ストレスチェック制度は個人結果の通知だけでなく職場ごとの集団分析・職場環境改善までを含む一体的な制度であるため、職場の実態を把握できるのは派遣先です。このため、個人の受検・結果通知は雇用関係のある派遣元が担い、集団分析については実際に働く職場を管理する派遣先が協力するのが望ましいという整理になっています。これは弊社の別記事「IT業界のストレスチェック義務化ガイド」でSES・客先常駐の実施主体を解説した際の考え方とも共通しています。派遣社員を受け入れている事業場は、個人対応と集団分析とで窓口が分かれる点を派遣元・派遣先の双方であらかじめ確認しておくとトラブルを避けられます。
休職者・産休育休中の扱い
ストレスチェックの実施期間中に病気で休職していたり、産休・育休、介護休業を取得していたりする労働者については、その期間中に実施する義務はありません。厚労省のマニュアルが示す社内規程のモデル例でも、「ストレスチェック実施期間に休職していた社員のうち、休職期間が1か月以上の社員については、ストレスチェックの対象外とする」という定め方が例示されています。これはあくまで各事業場が定める運用ルールの一例であり、法令が一律に除外を義務付けているわけではありませんが、実務上は多くの事業場がこうした運用を採用しています。特にメンタル不調による休職者に対しては、受検を積極的に促すこと自体が負担になりかねないため、慎重な配慮が求められます。復職後は通常どおり対象者としてカウントされます。
50人未満事業場での注意点:「対象者」と「事業場規模の50人」は別物
50人未満の事業場が対象者の判断で最も混同しやすいのがこの点です。ストレスチェックの対象者を数えるときの基準(契約期間・労働時間による4分の3基準)と、事業場規模が50人以上かどうかを判定するときの「常時使用している労働者」の数え方は、実は別の基準です。
事業場規模の50人カウントで使う「常時使用している労働者」は、契約期間や週の労働時間で線引きするのではなく、常態として使用されているかどうかで判断します。そのため、労働時間数が短いアルバイトやパートタイム労働者、派遣先で受け入れている派遣労働者であっても、継続して雇用し常態として使用していれば、この50人のカウントには含める必要があります。
つまり、次のようなケースが起こり得ます。
- ストレスチェックの「対象者」(4分の3基準を満たす人)は45人
- しかし短時間のパートなどを含めた「常時使用している労働者」は52人
この場合、労働基準監督署への結果報告が必要な50人以上の事業場に該当する可能性があります。「対象者が50人未満だから報告は不要」と早合点せず、この2つのカウントを分けて確認することが重要です。なお、労基署への報告義務自体は労働者数50人以上の事業場に課されるもので、50人未満の事業場は不要です。義務化の施行時期や50人未満事業場の経過措置については「ストレスチェック義務化の完全ガイド」で詳しく解説しています。
FAQ
Q1. 週20時間未満のアルバイトは絶対に対象外ですか? 法令上の対象者の要件(4分の3基準、望ましいとされる2分の1基準)には該当しません。ただし、事業場の判断でより広い範囲に任意で実施することを妨げるものではありません。
Q2. 契約社員が更新を重ねて2年以上働いています。毎年契約書は1年更新です。対象になりますか? 契約期間が1年以上、かつ労働時間が4分の3基準を満たしていれば対象です。1年更新であっても、更新により1年以上使用されることが予定されている、またはすでに1年以上継続して使用されているため、契約期間の要件は満たします。
Q3. 派遣社員を受け入れていますが、当社(派遣先)でストレスチェックを実施する必要がありますか? 個人へのストレスチェックの実施義務は派遣元にあります。派遣先が個人向けの調査票を配布する必要はありませんが、集団分析については派遣先が協力するのが望ましいとされているため、派遣元と分担方法をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
Q4. 休職者にも念のため受けてもらうべきですか? 実施期間中の休職者に実施義務はありません。特にメンタル不調による休職の場合、受検を促すこと自体が本人の負担になりかねないため、積極的な勧奨は避けるのが望ましいとされています。復職後の実施機会で対応するのが一般的です。
Q5. 対象者が45人しかいないので50人未満の扱いでよいですか? 対象者の人数と、事業場規模を判定する「常時使用している労働者」の人数は別の基準で数えます。短時間のパートや派遣労働者も後者には含まれるため、実際には50人以上になっていないか、別途確認が必要です。
まとめ
ストレスチェックの対象者は、雇用形態の呼び名ではなく、契約期間(1年以上またはそれに準ずる状態)と労働時間(通常労働者の4分の3以上)という2つの客観的な基準で判断します。パート・契約社員・派遣社員が多い事業場ほど、ケースごとに丁寧な確認が必要になり、特に派遣社員の実施義務の所在や、対象者数と事業場規模の50人カウントの違いは誤解が生じやすいポイントです。自社での判断に迷う場合は、Smart Stress Checkのような外部サービスを活用しながら、対象者の洗い出しから始めてみてください。