「うちは一人親方が多いから、ストレスチェックはそもそも関係ないのでは」「現場が点在していて全員を一度に集められない」——建設業の経営者や労務担当者から、こうした声をよく聞きます。2028年4月1日には、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。しかし建設業は重層下請け構造や一人親方の存在、現場ごとに勤務地が変わる働き方など、他業種にはない事情を抱えており、「誰が対象で、誰が対象外なのか」が分かりにくい業界でもあります。この記事では、一人親方の扱いと現場作業員特有の労働時間管理の課題に絞って、建設業がストレスチェックを実務でどう進めればよいかを解説します。
建設業でストレスチェックへの対応が急がれる理由
建設業は、精神障害による労災請求件数が全業種の中でも上位に位置する業界です。厚生労働省が公表した令和6年度「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害の労災請求件数は業種別で「運輸業、郵便業」213件、「卸売業、小売業」150件に次いで「建設業」が128件と、全業種の中でも上位に入っています。全体の請求件数も3,780件(前年度比205件増)と6年連続で増加しており、心の健康問題は建設業にとっても他人事ではありません。
背景の一つが、長時間労働です。建設業は働き方改革関連法による時間外労働の上限規制について5年間の適用猶予が認められていましたが、2024年4月1日からは他業種と同様に、原則として月45時間・年360時間という上限が適用されています(大規模な災害からの復旧・復興事業に限り、月100時間未満・複数月平均80時間以内という例外はあります)。猶予期間が終わり、現場の勤怠管理そのものを見直す必要に迫られている会社も多いはずです。労働時間管理の適正化とメンタルヘルス対策は、建設業においてはセットで取り組むべき課題といえます。
一人親方はストレスチェックの対象になるのか
結論から言うと、一人親方本人は、ストレスチェックの実施義務の対象には含まれません。
ストレスチェック制度は労働安全衛生法に基づく制度であり、対象となるのは事業者と「労働契約」を結んでいる労働者です。一人親方は個人事業主として元請けや上位の下請けと請負契約を結んで働く立場であり、労働基準法上の「労働者」には該当しません。労災保険についても一人親方は「特別加入制度」という別枠で任意加入する仕組みになっており、これもストレスチェックが労働者性を前提にした制度であることの裏付けです。
ただし、ここで注意が必要なのは「一人親方」という呼び方をしていても、実態として現場の指揮命令を受け、時間や場所を拘束されて働いている場合は、契約形態にかかわらず労働者性が認められることがある点です。名目上は請負契約でも、実態が雇用に近い「偽装請負」的な運用になっていないかは、労務担当者が定期的に点検すべきポイントです。
現場に関わる人の労働者性を整理すると、以下のようになります。
| 立場 | 契約形態 | ストレスチェックの対象 |
|---|---|---|
| 自社の常用従業員(職長・作業員) | 雇用契約 | 対象(週の労働時間が通常の労働者の4分の3以上など要件を満たす場合) |
| 一人親方 | 請負契約(個人事業主) | 原則対象外(実態が雇用に近い場合は個別判断) |
| 日雇い・短期の応援作業員 | 雇用契約だが期間が短い | 契約期間や労働時間により対象外となる場合が多い |
| 下請け会社から常駐する作業員 | 下請け会社と雇用契約 | 下請け会社が実施主体(元請けの義務ではない) |
重層下請け構造の現場では、「誰の従業員か」を明確にしたうえで、実施義務を負うのはあくまで各作業員と直接の雇用契約を結んでいる事業者だという原則を、社内で共有しておくことが大切です。元請けが下請けの従業員のストレスチェックまで代わりに実施する義務はありませんが、安全衛生管理の一環として、下請け各社に実施状況を確認する運用にしている元請け企業もあります。
現場作業員特有の労働時間管理とストレスチェックの関係
建設業のストレスチェック運用が他業種より難しく感じられる理由の一つが、対象者の把握と労働時間管理の複雑さです。
現場が点在し、直行直帰が多い
オフィスワークと違い、建設業では従業員が本社に出社せず現場に直行直帰することが一般的です。ストレスチェックの実施主体はあくまで雇用契約を結んでいる事業者(本社・支店)であり、現場が分かれていても対象者の管理単位は事業場(雇用主)ごとになります。オンラインで回答できるツールを使えば、現場に出向くことなく各自のスマートフォンやタブレットから回答してもらう運用が可能です。
季節・工期によって労働時間が変動する
繁忙期には残業が集中し、閑散期には落ち着くというように、工期に応じて労働時間が大きく変動するのも建設業の特徴です。ストレスチェックの「仕事の量的負担」を問う項目は、実施時期によって回答結果が大きく変わりやすいため、繁忙期の真っ只中に実施すると恒常的な高ストレス状態と誤認されたり、逆に閑散期に実施すると実態を把握しきれなかったりする可能性があります。可能であれば、年間の中で比較的安定した時期を選んで実施し、繁忙期の残業時間データは別途、労働時間管理の記録と突き合わせて確認するのが現実的です。
短期雇用・応援作業員が多い
工期に応じて短期的に人員を増減させる建設業では、ストレスチェックの対象要件(雇用期間が1年以上見込まれること、週の労働時間が通常の労働者の4分の3以上であることなど)を満たさない作業員も少なくありません。全員を一律に対象とするのではなく、雇用契約の実態に応じて対象者リストを都度更新する運用が必要です。
50人未満の建設業事業場が実施する際の実務ステップ
2028年4月1日の義務化に向けて、50人未満の建設業事業場が準備すべき流れは次のとおりです。
- 対象者の洗い出し: 直用の常用従業員と一人親方・下請け作業員を切り分け、自社が実施義務を負う対象者を確定する
- 実施体制の整備: 産業医が不在の場合が多いため、外部の実施者(外部委託サービスや保健師など)に委託するのが一般的
- 実施時期の決定: 繁忙期を避け、年1回の実施タイミングを社内カレンダーに組み込む
- 周知方法の工夫: 現場に出社しない従業員にも行き渡るよう、オンライン回答やLINE等の通知を併用する
- 高ストレス者への対応: 面接指導の申出があった場合の相談先(産業医または委託先の医師)をあらかじめ確保しておく
50人未満の事業場については2029年3月31日までに初回の実施を完了させる経過措置が設けられていますが、猶予があるからといって後回しにすると、直前になって委託先の確保や対象者の洗い出しに追われることになります。早めに準備を始めておくと安心です。
FAQ:建設業のストレスチェックでよくある質問
Q1. 一人親方だけの会社(従業員なし)でもストレスチェックは必要ですか?
いいえ。ストレスチェックは「労働者」を雇用する事業者に課される義務のため、一人親方本人しかいない場合は制度上の対象外です。ただし、一人親方自身のメンタルヘルスケアが不要というわけではなく、任意で健康相談窓口を利用するなど自主的な対策は有効です。
Q2. 現場応援で他社から来ている作業員のストレスチェックは自社が実施するのですか?
いいえ。応援作業員が別会社と雇用契約を結んでいる場合、実施義務を負うのはその作業員の雇用主(応援元の会社)です。自社と直接雇用契約のある従業員のみが対象になります。
Q3. 元請けとして、下請け各社の実施状況を確認する義務はありますか?
法律上、元請けに下請けのストレスチェック実施を確認する直接の義務はありません。ただし、安全衛生管理体制の一環として実施状況の報告を求める元請け企業も増えており、現場全体のメンタルヘルスリスクを把握する取り組みとして有効です。
Q4. 現場が全国に分散していて、全員を一度に集めるのが難しいのですが?
オンラインで回答できるストレスチェックツールを使えば、各自のスマートフォンから個別のタイミングで回答してもらえるため、現場を一箇所に集める必要はありません。回答期限を設定し、期限内に未回答の従業員には現場責任者から声をかけてもらう運用が現実的です。
Q5. ストレスチェックの費用はどれくらいかかりますか?
外部委託の場合、従業員1人あたり数百円〜1,500円程度が相場です。実施方法別の詳しい費用比較は外部委託と自社実施のコスト比較記事でも解説しています。
まとめ
建設業のストレスチェックは、一人親方や重層下請け構造が絡むために「誰が対象なのか」の切り分けが最初のハードルになります。一人親方本人は制度上の対象外である一方、実態として労働者性が認められるケースもあるため、契約形態だけで機械的に判断せず、働き方の実態を確認しておくことが大切です。また現場の直行直帰や工期による繁閑差といった建設業特有の事情も、実施時期や周知方法を工夫すれば十分に対応できます。
Smart Stress Checkは、オンラインで完結する簡単なストレスチェックツールで、現場に出社しない従業員でもスマートフォンから回答できます。産業医が不在の中小建設業でも導入しやすい設計になっているので、2028年の義務化に向けた準備の第一歩として検討してみてください。