「ストレスチェックを受けた社員の結果は、人事や上司に見られてしまうのか」——初めてストレスチェックを実施する担当者や、これから受検する従業員から必ず出る疑問です。結論から言うと、個人の結果は原則として本人と実施者しか見ることができず、会社が見るには本人の同意が必要です。ただし、集団分析や高ストレス者の面接指導など、同意の要否や情報の流れが場面ごとに異なるため、正しく理解していないと「知らないうちに規程違反をしていた」という事態になりかねません。この記事では、誰が・どの範囲まで・どんな条件で結果にアクセスできるのかを、厚生労働省の資料に基づいて整理します。
個人結果を最初に見られるのは本人と実施者だけ
ストレスチェックの結果は、検査を行った実施者(医師・保健師・所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師)から、直接受検者本人に通知されます。労働安全衛生法第66条の10では、事業者はあらかじめ受検者の同意を得ずに結果を入手してはならないと定められており、これは会社の代表者であっても、直属の上司であっても例外ではありません。
実施者や、実施者の指示のもとで検査事務を行う実施事務従事者には法律上の守秘義務が課されており、違反した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象になります。この守秘義務があるからこそ、従業員は「正直に回答しても不利益を受けない」と信頼して検査を受けられる仕組みになっています。
会社が個人結果を見るには本人の同意が必要
事業者が個人の結果を入手したい場合は、結果通知後に本人から個別の同意を得る必要があります。ここで注意したいのが同意取得のタイミングと方法です。
| 項目 | 適切な扱い | 不適切な扱い |
|---|---|---|
| 同意を取るタイミング | 結果通知後に個別に確認 | 受検前・受検時にまとめて同意を取る |
| 同意の単位 | 労働者一人ひとりから個別に | 衛生委員会の合議など包括的な同意 |
| 同意の取り方 | 面接指導の申出をもって同意とみなす、または書面・メールで個別確認 | 上司からの口頭要求に応じて開示 |
| 強要の有無 | 任意であることを明示 | 同意しないと不利益になると示唆する |
同意なくストレスチェックの結果を入手したり、それを理由に不利益な取扱い(解雇・雇止め・不当な配置転換など)を行ったりすることは、指針で明確に禁止されています。中小企業では人事担当者と現場の距離が近く、悪意なく「ちょっと結果を教えて」という会話が起きやすいため、実施規程や研修であらかじめ社内に周知しておくことが重要です。
集団分析なら本人同意なしで見られる場合がある
個人結果とは別に、部署やチーム単位で集計・分析する「集団分析」は、労働安全衛生規則第52条の14に基づき、事業者が実施者に行わせる努力義務として位置づけられています。個人が特定されない集計であれば、本人の同意を得ずに管理職や経営層に結果を提供できます。
ただし、集計・分析の単位が10人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として対象労働者全員の同意がない限り事業者への提供はできません。少人数の部署が多い中小企業では、この10人未満のルールに引っかかるケースが少なくありません。個人特定につながらない方法(複数部署を合算する、会社全体で集計する等)を使えば10人未満でも分析は可能ですが、その場合もあらかじめ衛生委員会等での調査審議が必要です。集団分析の具体的な進め方や判定図の見方は、集団分析の解説記事でも詳しく取り上げています。
高ストレス者の面接指導では情報がどう流れるか
高ストレス者として選定された従業員が面接指導を申し出た場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務を負います。この申出自体が「結果を事業者に提供することへの同意」とみなされる運用が一般的なため、面接指導の対象になった時点で、少なくとも面接指導の実施に必要な範囲の情報は会社側に伝わることになります。
一方で、申出をしなかった高ストレス者の個人結果は、会社には一切伝わりません。「高ストレスなのに申し出てくれない社員がいて心配」という相談を担当者からよく受けますが、これは制度上正しい状態であり、無理に個人を特定しようとする行為はかえって指針違反のリスクを高めます。面接指導の対象範囲や流れの詳細は、高ストレス者の面接指導ガイドを参照してください。通知方法についても、自宅への郵送やパスワード付きメールなど、他の家族や同僚に内容が漏れない配慮が求められます。
実施事務従事者・人事担当者が見られる範囲
実施者の指示のもとで名簿作成やデータ入力などの事務を担う実施事務従事者も、個人結果に触れる可能性がある立場として法律上の守秘義務を負います。ただし、「解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者」は実施事務従事者になることができません。人事部長や事業場のトップなど、人事権を持つ立場の人が検査事務を兼ねることは制度上想定されていないため、担当者の人選段階で注意が必要です。実施事務従事者になれる人の具体的な条件は、実施事務従事者の解説記事にまとめています。
社内共有ルールをあらかじめ決めておく
ここまで見てきたように、結果にアクセスできる範囲は「個人結果か集団分析か」「本人の同意があるか」「何人単位の集計か」によって細かく変わります。トラブルを防ぐには、誰が・どの範囲まで・どんな条件でデータを扱うのかを社内規程として文書化し、衛生委員会等で調査審議したうえで、あらかじめ全従業員に周知しておくことが効果的です。結果そのものの保存期間や保管方法についても、結果の保存期間の解説記事で扱っていますので、あわせて規程に盛り込むとよいでしょう。
Smart Stress Checkでは、個人の回答は暗号化して保存し、経営者や管理職の画面には10人以上の集団分析結果のみを表示する設計にしているため、個人結果の閲覧範囲を巡る運用ミスをそもそも起こしにくい仕組みになっています。QRコードで受検を開始でき、報告書の集計作業も自動化されるため、情報管理のルール作りに集中したい中小企業の担当者にも向いています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 社長や人事部長なら、従業員の同意なく結果を見てもよいですか? A. いいえ。役職に関わらず、個人結果を見るには受検者本人の同意が必要です。社長や人事部長という立場自体が同意の代わりになることはありません。
Q2. 従業員10人未満の部署では集団分析結果を一切見られないのですか? A. 原則として対象者全員の同意がない限り提供できません。ただし、複数部署を合算するなど個人が特定されない集計方法を使えば、衛生委員会での審議を経て10人未満でも分析・提供が可能です。
Q3. 高ストレス者と判定された社員が誰か、会社側から把握できますか? A. できません。本人が面接指導を申し出るか、個別に同意した場合を除き、誰が高ストレス者に該当したかという情報自体、会社には伝わりません。
Q4. 人事担当者が実施事務従事者を兼務してもよいですか? A. 解雇・昇進・異動について直接の権限を持つ監督的地位にある人事担当者は実施事務従事者になれません。権限のない事務スタッフであれば兼務は可能です。
Q5. 同意を得ずに結果を見てしまった場合、会社は罰せられますか? A. 実施者・実施事務従事者が守秘義務に違反した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象になり得ます。加えて、同意なき結果の取得を理由とした不利益取扱いが行われれば、指針違反として行政指導の対象にもなります。
結果の開示範囲は、法律上の建前を知っているだけでは運用できません。自社の部署の人数構成や、面接指導の申出フローまで含めて、具体的な運用ルールに落とし込んでおくことが、従業員の信頼を守りながら制度を機能させる近道です。