実務ノウハウ

ストレスチェックを紙で実施する方法|配布・回収・集計の進め方

ストレスチェックを紙の調査票で実施する方法を解説。用意するもの、配布・回収時のプライバシー保護、高ストレス者の判定計算、紙で起きやすい3つのつまずき、Web切り替えの判断材料までFAQ形式で整理します。

#ストレスチェック#中小企業#紙

「うちはパソコンやスマホが全員に行き渡っていないから、ストレスチェックは紙でやるしかない」という中小企業の声をよく聞きます。結論から言うと、紙での実施は制度上まったく問題ありません。ただし紙には紙特有のつまずきやすい場面があります。この記事では、紙で実施する場合に用意するもの、配布から回収までの進め方、集計の方法、そして紙だからこそ起きやすい3つの落とし穴を、厚生労働省の一次資料に基づいて整理します。

紙での実施は認められているのか

労働安全衛生規則上、ストレスチェックの調査票について紙かWeb(ICT)かの様式は指定されていません。厚生労働省の実施マニュアルによれば、規則第52条の9で定める3つの領域(仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポート)に関する項目が含まれている調査票であれば、実施者の意見を聞いたうえで衛生委員会等での審議を経て、事業者が選ぶことができます(厚生労働省 ストレスチェック制度実施マニュアル)。

最も広く使われているのは厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)です。項目の中身や回答方法については57項目とは何かを解説した記事で詳しく扱っているので、ここでは紙で運用する際の実務に絞って説明します。

紙で実施する場合に用意するもの

紙で実施すると決めたら、次のものを事前に用意します。

用意するもの 内容・ポイント
調査票 対象人数に予備を加えた部数を印刷。57項目版が標準
記入済み調査票用の封筒 回収時に内容が見えない状態にするため必須
結果通知用の封筒 本人以外が開封できない形での返却に使う
回収箱 施錠できるものが望ましい。設置場所も後述の導線に関わる
実施者・実施事務従事者の名簿 誰が何を担当する方法です。

合計点数方式は、素点をそのまま合計する方法です。領域B(心身のストレス反応)の合計点数が77点以上、または領域A+C(仕事のストレス要因・周囲のサポート)の合計が76点以上かつ領域Bが63点以上のいずれかに該当すると高ストレス者と判定します。

素点換算表方式は、各尺度の素点を年齢構成などを考慮した換算表で評価点(1〜5段階)に置き換えてから判定する方法です。こちらは評価点が低いほどストレスが高いという逆向きの評価になっており、領域Bが評価点合計が12点以下、または領域A+Cの評価点合計が26点以下かつ領域Bが17点以下のいずれぇが高ストレス者と判定します。

どちらの方式でも、質問によっては点数の高低が逆転する項目(設問への回答が「そうだ」に近いほど点数が低くなる項目)があり、これを普通の項目と同じ向きで集計してしまう入力ミスが起きやすい部分です。少人数であれば手計算でも対応できますが、対象者が増えるほど誤りのリスクも増えるため、前述の厚生労働省版プログラムのような専用ツールを使うほうが安全です。

紙のほうがつまずきやすい3つの場面

紙での実施自体に問題はありませんが、運用してみると次の3つの場面でWeb実施との差を実感しやすくなります。

1つ目は未受検者の把握です。 Web実施なら回答状況がシステム上で自動的に分かりますが、紙の場合は回収箱に何枚入っているかを数え、名簿と突き合わせる作業が必要になります。厚生労働省のマニュアルでは、実施事務従事者が受検状況を把握し、未受検者には実施事務従事者や各職場の管理者を通じて受検を勧奨することが示されています。本人が受検を望まない場合の対応は「受けたくない」と言われたときの対応で扱っています。

2つ目は結果の返却と保管です。 個人結果は本人以外が中身を見られない形で返却する必要があり、紙の原本や記録を保管する場所・鍵の管理も紙ならではの負担になります。結果記録の保存期間や保存方法については結果の保存期間は5年で詳しく解説しています。

3つ目は集団分析に使える形にならないことです。 部署別・年代別といった単位で集計し直すには、紙の回答をもう一度手作業で仕分ける必要があり、対象者が増えるほど現実的でなくなります。集団分析の位置づけや活用法は集団分析とは何かにまとめているので、紙での運用を続ける場合はこの記事もあわせて確認しておくとよいでしょう。

Webに切り替えるかどうかの判断材料

紙とWebのどちらが良いかは、会社の状況によって変わるため一概には言えません。判断材料になるのは主に次の3点です。

  • 人数規模: 数十人規模であれば紙でも十分に運用できますが、対象者が増えるほど集計や未受検者の把握にかかる手間が比例して増えます
  • 拠点数: 複数拠点がある場合、紙は郵送や巡回での回収が必要になり、実施期間が長引きやすくなります
  • 集計にかけられる人手: 実施事務従事者が本業と兼務している会社では、前述の集計作業が負担になりやすい部分です

これらの負担を減らす手段としてWeb・アプリ型のツールを使う選択肢もあります。たとえばSmart Stress Checkは、QRコードを掲示するだけで従業員が自分のスマホから受検でき、57項目の調査票にプレゼンティーイズム(出社していても本来の能力を発揮できていない状態)を測る設問を加えた58項目に平均3分程度で回答が終わる仕組みです。回答は自動集計され、労基署への提出書類(様式第6号の2)に近い形の報告書も生成されます。ただし実施者(医師・保健師など)の確保は利用者側で別途行う必要がある、当社が実施者を提供するものではない点は留意してください。紙の運用に手間を感じ始めたタイミングで、一部だけでもWebに切り替える価値があるかを検討する材料にしてみてください。

よくある質問

Q. 紙とWebを拠点ごとに使い分けてもよいですか? A. 問題ありません。ただし高ストレス者の判定方法(合計点数方式か素点換算表方式か)は全社で統一しておかないと、拠点間で判定基準がずれてしまうため注意が必要です。

Q. 記入済みの調査票を上司や経営者が見てしまった場合はどうなりますか? A. 実施者・実施事務従事者には法令上の守秘義務があり、権限のない人が個人の回答を見られる状態を作ってしまうこと自体が運用上の問題になります。守秘義務の具体的な中身は実施事務従事者の記事で解説しています。

Q. 合計点数方式と素点換算表方式、どちらを使えばよいですか? A. 厚生労働省はどちらの方法でも構わないとしています。素点換算表方式は年齢構成などを考慮したより精緻な方法とされますが、逆向きの評価軸があり手計算では間違えやすいため、少人数なら合計点数方式、対象者が多い場合は専用の集計プログラムを使う方法をおすすめします。

Q. 紙の調査票を、あとからデータ化してもよいですか? A. 問題ありません。ただし個人情報を含むデータのため、入力を行う担当者は実施事務従事者に限定します。保存が必要なのは実施者による評価結果の記録であり、保存期間の考え方は結果の保存期間の記事を参照してください。

Q. 未受検者にはどこまで受検を強制できますか? A. 受検の勧奨はできますが、強制はできません。受検したくないと言われた場合の具体的な対応は「受けたくない」と言われたらにまとめています。

紙での実施は制度上まったく問題のない選択肢ですが、人数や拠点が増えるほど、配布・回収・集計にかかる手間が積み上がっていきます。今の規模でどこまで紙で回せるか、どこからWebに頼るべきかを見極める材料として、この記事を参考にしてください。

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