実務ノウハウ

ストレスチェックを「受けたくない」と言われたら

ストレスチェックの受検を拒否されたときの対応を解説。事業者の実施義務と労働者の受検義務の違い、不利益取扱いの禁止、未受検者の記録の残し方、労基署への報告方法までFAQ形式で整理します。

#ストレスチェック#受検拒否#未受検者

「今年は受けたくないんですが」——ストレスチェックの案内を出したあと、こう言われて対応に困った人事・総務担当者は少なくありません。強く勧めれば「強制はできないはず」と言われそうで気が引けるし、放置すれば受検率が下がって集団分析の精度も落ちる。この記事では、受検拒否にどこまで応じるべきか、不利益な取扱いをしてよいか、未受検者の記録や労基署への報告はどうするかを、厚生労働省の指針に基づいて整理します。

「受けたくない」と言われる場面は実際どういうときか

現場で受検を拒否される理由は、だいたい次の3つに分類できます。

理由 背景にある不安・実情
結果が人事に伝わるのが怖い 評価や配置に影響するのではという誤解、過去に情報管理がずさんだった経験
単純に時間がない 業務の合間に調査票を書く時間の確保が難しい、繁忙期に案内が来た
必要性を感じない 「自分はストレスを感じていない」という自己判断、制度の目的を知らない

このうち最も対応が難しいのが1つ目の「結果が人事に伝わるのでは」という不安です。実際には、個人のストレスチェック結果は実施者と本人以外には開示されない仕組みになっており、この不安への答えは後述の「実施事務従事者の選任と情報の線引き」で詳しく説明します。

受検は義務なのか——事業者の実施義務と労働者の受検義務は別

まず整理しておきたいのは、ストレスチェック制度における「義務」の主体です。

労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、年1回のストレスチェックの実施が事業者の義務として課されています(2028年4月1日からは50人未満の事業場にも実施義務が拡大されます)。

一方、労働者側にはストレスチェックを受検する法律上の義務はありません。厚生労働省の資料でも「ストレスチェックを受けるか否かは、最終的には労働者の判断による」とされており、受検はあくまで労働者の自由意思に委ねられています。つまり「事業者は実施しなければならないが、労働者に受けさせる強制力までは持たない」という非対称な構造になっているのが、この制度の分かりにくさの根本です。

したがって、案内文で「必ず受検してください」と表現するのは望ましくなく、受検の意義を説明したうえで「受検をお勧めします」という勧奨のスタンスにとどめるのが、指針の趣旨に沿った対応です。

受検しなかった人に不利益な取扱いをしてよいか

受検を拒否した労働者に対して、事業者が懲戒処分や配置転換などの不利益な取扱いを行うことは、ストレスチェック指針で明確に禁止されています。

指針が禁止する不利益取扱いの典型例は次のようなものです。

  • 受検しなかったことを理由とする解雇、雇止め、契約更新の拒否
  • 受検しなかったことを理由とする配置転換や職位(役職)の変更
  • 受検しなかったことを理由とする、その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する不利な処遇

これは高ストレス者と判定された人・面接指導を申し出た人への不利益取扱い禁止と並んで指針に定められているルールで、「受けない」という選択そのものに対しても同じ考え方が適用されます。人事評価の項目に「ストレスチェックの受検率」や「受検の有無」を組み込むことも、この趣旨に反するおそれがあるため避けるべきです。

社内規程やイントラの案内文には、「受検状況は人事評価に影響しません」「受検・未受検を理由に不利益な取扱いは行いません」という一文を明記しておくと、労働者の不安を減らす効果があります。

未受検者の記録はどう残すか

受検を拒否された場合でも、事業者側の対応記録は残しておく必要があります。理由は2つあります。

1つは、衛生委員会等で受検率の低さを議題にする際、どのような勧奨を行ったかを示す材料になるためです。もう1つは、万が一のちに「受検を強要された」という主張が出た場合に、実際には強制していないことを示す証拠になるためです。

具体的には、次のような形で記録を残すことをお勧めします。

  • 対象者名簿に受検・未受検の区分を記載する(結果の内容は記載しない)
  • 未受検者に対して、いつ・どのような方法で受検を勧奨したかを記録する(案内メールの送付日、口頭での声かけの日付など)
  • 拒否の理由を本人が話してくれた場合は、個人が特定されない形で傾向として記録する(衛生委員会での改善検討に活用するため)

この記録は、実施事務従事者が事務作業として扱う情報の一部です。実施事務従事者の役割や、選任時に人事権を持つ人を避ける必要がある理由については、実施事務従事者は誰が担当できるかで詳しく解説しています。

労基署への報告で未受検者はどう数えるか

常時50人以上の事業場は、年1回、ストレスチェックの実施結果を「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」として労働基準監督署に提出する義務があります。

この報告書に記載するのは、実際に受検した労働者の人数(受検者数)です。未受検者を報告書上で個別に区分して記載する欄はなく、在籍労働者数から受検者数を差し引けば、未受検者数が算出できる形になっています。

つまり、受検を拒否した人がいても、それ自体が事業者の法違反にはなりません。ただし、受検率があまりに低い状態が続く場合は、衛生委員会等で勧奨方法を見直すことが望ましいとされています。報告書の提出期限や記入項目の詳細は、ストレスチェック結果等報告書の書き方にまとめています。

「結果が人事に伝わるのでは」という不安への実務的な答え

受検拒否の最大の理由である「結果が人事に伝わるのでは」という不安には、制度の構造そのもので答えることができます。

ストレスチェックの個人結果は、実施者(医師・保健師等、所定の要件を満たす人)と本人以外には開示されません。人事権を持つ人は、実施者にも実施事務従事者にもなることができないというルールが指針で定められているためです。実施者・実施事務従事者に求められる要件については、ストレスチェックの実施者とはで解説しています。

事業者・経営者側に開示されるのは、10人以上の集団を対象にした統計的な分析結果のみで、個人が特定される形での結果提供は法令上行われません。案内文でこの仕組みを図解付きで説明するだけで、受検への抵抗感が下がったという中小企業の例もあります。「結果は守秘義務のある担当者しか見られない」「経営者が見るのは個人が分からない集計データだけ」という2点は、案内文に必ず入れておきたい説明です。

受検率を上げている会社が実際にやっていること

受検率の低さに悩む会社が改善に成功した例を見ると、共通しているのはおおむね次の3点です。

  1. 案内文で「守秘義務」と「結果の使われ方」を具体的に書く:「あなたの個人結果は上司や人事に伝わりません」と名言し、誰が・どこまで見るのかを図で示す
  2. 受検時間を業務時間内に確保する:オンライン受検であれば15分程度で完了することを伝え、始業直後や昼休み明けなど負担の少ない時間帯を案内する
  3. 衛生委員会や産業保健スタッフから受検の目的を説明する機会を作る:人事部からの案内だけでなく、産業医・保健師や外部の産業保健サービスから直接説明してもらうことで、人事評価と無関係であることの説得力が増す

これらはいずれも、受検を「強制」するのではなく、不安の材料を取り除いて自発的な受検を後押しするアプローチです。指針が求める「自由意思の尊重」と矛盾しない形で受検率を上げる方法と言えます。

50人未満の事業場が2028年4月に向けて今から準備できること

2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、常時50人未満の事業場にも2028年4月1日からストレスチェックの実施が義務化されます。50人未満の事業場は労基署への報告義務が免除される見込みですが、実施義務そのものは免除されません。

今のうちに準備しておきたいのは次の点です。

  • 実施者(医師・保健師等)の確保方法を決める(産業医がいない場合の対応は産業医がいない会社のストレスチェック対応を参照)
  • 実施事務従事者に誰を選任するか、人事権の有無を確認したうえで検討する
  • 受検拒否があった場合の勧奨・記録の流れを、社内規程やフローとして先に決めておく
  • 案内文のテンプレートを、守秘義務の説明を含めた形で準備しておく

規模が小さい会社ほど、実施事務従事者になれる人の候補が限られ、受検を拒否されたときの心理的なハードルも上がりがちです。制度全体の準備項目はストレスチェック義務化完全ガイドで確認できます。

FAQ

Q1. 派遣社員が受検を拒否した場合、対応は誰が行いますか?

派遣先の事業者にストレスチェックの実施義務はなく、派遣元の事業者が実施義務を負います。受検の勧奨や記録も派遣元が行うのが基本です。派遣先は、集団分析の観点から実施状況の共有を受けることはありますが、個別の受検拒否への対応を主導する立場にはありません。

Q2. 休職中の社員に受検を案内すべきですか?

休職中の社員も対象者に含まれますが、療養に専念すべき状況であれば、案内自体を見送る、または復職後に改めて受検の機会を設けるといった配慮が必要です。休職中に無理に受検を求めることは、勧奨の範囲を超えるおそれがあります。

Q3. 退職予定者が受検を拒否した場合はどうすればよいですか?

退職予定であっても、実施時点で在籍している労働者は対象者に含まれます。ただし、退職直前で受検の意義を感じにくいという事情もあるため、強い勧奨は避け、拒否があった場合は通常の未受検者と同様に記録を残す対応で問題ありません。

Q4. 受検を拒否した人が高ストレス状態にあると分かっている場合、面接指導を強制できますか?

面接指導も労働者の申出に基づくものであり、受検自体を拒否している場合は面接指導の対象にもなりません。ただし、明らかに不調のサインが見られる場合は、ストレスチェックの枠組みとは別に、上司や産業保健スタッフから個別に声をかけることは可能です。高ストレス者への面接指導の実務は高ストレス者の面接指導とはで解説しています。

Q5. 産業医がいない小規模な会社でも、受検拒否への対応は同じですか?

考え方は同じです。受検は労働者の自由意思であり、拒否を理由とした不利益取扱いは禁止されます。産業医がいない場合は、地域産業保健センター(地域窓口)や外部の産業保健サービスを実施者として確保しつつ、受検勧奨と記録は事業者側(実施事務従事者)が担う形になります。

まとめ

受検拒否への対応で押さえておきたいのは次の点です。

  • 事業者には実施義務があるが、労働者には受検義務がなく、受検は自由意思に委ねられている
  • 受検拒否を理由とした懲戒処分や配置転換などの不利益な取扱いは指針で禁止されている
  • 未受検者への勧奨内容と対応状況は記録しておき、労基署への報告書には受検者数のみを記載する
  • 「結果が人事に伝わるのでは」という不安には、実施者・実施事務従事者の守秘義務という制度の仕組みで具体的に答えられる
  • 案内文で守秘義務と結果の使われ方を明示することが、受検率向上の最も効果的な一手になりやすい

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参考にした主な一次情報

  • 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
  • 厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」(不利益取扱いの禁止に関する指針の記載)
  • 厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告」
  • 厚生労働省「改正労働安全衛生法(ストレスチェック50人未満義務化、2028年4月1日施行)」関連資料

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の事業場における法令上の判断については、所轄の労働基準監督署、産業保健総合支援センター、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

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